RESEARCH

脳のやわらかさを
希望に変える

私たちの研究室では脳がやわらかく変化する可塑性を研究し、
医療に応用するためのテクノロジーやアプリケーションの研究開発を行っています。

SCIENCE

サイエンス

生物学的な臓器である脳は、ある条件に置かれると可塑性(力を加えると変化する性質)を発揮することが知られています。その脳の可塑性について、基盤的な研究に取り組んでいます。

BMI技術の継続的な利用によって麻痺の改善が見られる背景には、いくつかの脳科学の定理が関係していると考えられます。なかでも代表的な定理が「強化学習」というフレームワークです。麻痺患者さんが動かなくなった手指を試行錯誤的に動かそうとして、たまたまうまくいったとき、脳では「報酬系」と呼ばれるシステムからドーパミンが放出されます。それを繰り返すと、そのときの脳活動パターンが写真の多重露光のように焼き付いて、脳の中に特定の神経活動パターンが次第に形成されていくのです。

こうした強化学習は、細胞レベルや神経回路のレベルでは知られていましたが、BMIを活用することで、ヒューマンスケールでも作用することを明らかにしてきました。ほかにも、「誤差学習」や「タイミング依存的可塑性」と呼ばれる重要な脳の可塑性原理がいくつかあり、それらの可塑性をもたらす脳の仕組みを追究しています。

TECHNOLOGY

テクノロジー

脳の可塑性原理を、実際の生活環境のなかで自在に引き出すテクノロジーの開発に取り組んでいます。開発しているのは、BMIを活用して、麻痺した手指の運動機能改善をうながす装置です。頭部に簡単に装着できるヘッドセットから脳波を読み取り、麻痺手に装着したロボットアームで手指を刺激して運動を支援します。

このときポイントになるのは、麻痺のある手指の運動機能回復に寄与する治療標的となる脳の領域のシグナルだけを、いかに精度よく検出するかです。脳の可塑性を引き出す「強化学習」の定理に従えば、標的部位の脳波の興奮性が認められた場合にのみ手指運動を支援して、そのフィードバックを脳に適切に与える必要があるからです。

ヘッドセットを使って脳波を測ると、頭蓋骨を隔てた頭皮の上から脳のシグナルを読み取ることになるため、さまざまなノイズも含んでしまうのですが、センサーの配置や精度を改善し、読み取った脳波を判定するAI処理の方法を工夫することで、治療標的から狙ったシグナルだけを検出する精度を高めています。このようにして、実際の環境で使えるテクノロジーを開発しています。

APPLICATION DESIGN

アプリケーション・デザイン

開発したテクノロジーを、どのような苦しみを抱えた人に、どのような文脈でソリューションとして提供するか。それを考えるのがアプリケーション・デザインです。単ーのテクノロジーで全てを解決する完璧なものは存在しません。さまざまなテクノロジーを、ひとつの文脈のなかに上手にシステマティックに組み込むことが重要です。

その意味では、BMIもひとつのテクノロジーに過ぎません。BMIをどのような医療の文脈で使えば、脳卒中によって失われた脳の機能を回復することができるのか。そうした治療のパイプラインを考えることも、医師と連携して取り組んでいます。

さらに言えば、私たちが解決したいのは脳卒中の問題に限りません。そのほかにも、多様な神経由来の疾患や困難を抱えている人たちの苦しみを、BMIを使ってどのように和らげることができるのか。健常者にしても、スポーツや音楽などで新しい技能を習得したいと思ったときに、脳はそれほど簡単に適応してはくれません。そうしたときに、BMIをどのように活用することができるのか。脳の制約から来るさまざまな苦しみや困難を解消するためのアプリケーション・デザインを、私たちは考察しています。