MISSION

人に寄り添うテクノロジーを
創造する

私たちの研究室は脳が本来持つ「やわらかさ」に着目し、
一人ひとりが豊かで人間らしい日々を過ごすためのテクノロジーの創造を目指します。

「やわらかい脳」の可能性を信じて

脳は、環境や訓練によって大きく変わる――。そんな「やわらかい脳」の可能性を私が強く信じるようになったきっかけは、私の少年時代にあります。

私が最初に脳に関心を持ったのは、小学生のときに遡ります。AI(人工知能)を研究している大学院生からプログラミングやAIについて教わる機会があり、脳と同じように物事を学習する仕組みを、コンピュータ上につくれるのかと驚きました。

中学生のころには、脳について2つの興味深い話を聴く機会がありました。ひとつは、縦じましかない環境で育った猫は、縦じましか見えない脳になり、外の世界に出しても横じまを認識できないという話です。脳は本来持っている機能をそのまま発揮できず、環境によって大きな制約を受けてしまうというのです。

もうひとつは、脳の片側半分を大ケガで損傷したのに、残る半分の脳が機能を補い、傍から見ると普通の人と何も変わらない生活をしている実在の少女の話です。脳はその半分を失っても、学習によっていろいろなものを吸収し、十分な機能を果たすのです。

この2つの話を聴き、脳はなんとドラマチックにその性質を変えるのだろうと驚き、自分のなかで脳に対する興味がますます高まりました。

脳卒中後の麻痺を治したい

私の脳への関心を高めた出来事がもうひとつあります。高校卒業間際に祖父が脳卒中で倒れて身体に麻痺が残り、車椅子生活を送るようになったのです。本人もつらい思いをしていたでしょうし、家族も介護の大変さを味わいました。

けれども、脳の半分を損傷しても普通に生きていける少女もいるのなら、脳卒中で麻痺を負った人も、やり方次第で運動機能を回復することができるようになるのではないか――。そんな少年時代からの思いがつながって、今では脳と身体をつなぐBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)の研究に取り組んでいます。脳卒中で麻痺が残った患者さんの終わりのない苦しみを和らげるためにBMIで脳の「治る力」を引き出し、手を再び動かせるようにしたいと思っています。

この研究を始めた当初は、「BMIで脳卒中の麻痺を治したい。脳にはその可能性があるはずだ」と言ったら、医師から笑われました。臨床の現場では、損傷した脳は回復しないというのが常識だったのです。

それでも私は、「脳のやわらかさ」を信じて諦めずに研究を続けました。医師の先生たちと交流を続け、BMIを使って麻痺の残った手を動かす実験を繰り返すうち、一人、また一人と、麻痺が緩和される患者さんが出てくるようになりました。脳が「やわらかさ」を発揮して、脳卒中によって失われた脳神経を補う代替経路が確立され、麻痺の残った手が動くようになったのです。

私が目指すのは、「やわらかい脳」が持つ可能性を引き出すツールとしてのBMIです。麻痺になったら終わりではない。麻痺になった人にも可能性を提供し、一人ひとりが豊かな日々を過ごすお手伝いをする。そんな「人に寄り添うテクノロジー」の実現を目指しています。